とうつきの本棚

本に纏わることの記録。

『秘密。私と私のあいだの十二話』吉田修一他

12人の著者による、1つの物語を2つの視点から綴った短編集。

 

なんてことないストーリーが、別の視点から綴られると驚きの展開に……!
そんな期待を持って読んだものの、完全に期待外れだった。

『秘密。』というタイトルから、「A面に隠された秘密がB面を読むことで明らかになる作り」だと思っていた。

しかし、B面は単にA面とは別の人物が語り手になっているだけの場合が多い。話の展開も面白みのないものが多く、単なる掌編の連作に留まると感じた。もっと設定を活かした作品を望んでいた。

 

勿論、A面/B面を活かして面白かった作品もある

『別荘地の犬』篠田節子

訪れた別荘地にて迷い犬を預かっていた主人公。滞在最終日にようやく「私の犬かもしれない」と電話が掛かってくる。やってきた女性に一目散に駆けてゆく犬の姿。めでたしめでたし……いや、実は。

『震度四の秘密』有栖川有栖

結婚間際の主人公は大坂の友人を手伝いに行くと言いながら、本当は名古屋の女性関係解消へ向かう。婚約者との電話中、大阪で震度4の地震が起きたことを何とか誤魔化したものの、実は……。

前者はA面では全く想像しなかった展開へ進んだB面だったし、後者はA面の僅かな違和感をうまく回収したB面だった。どちらも『秘密。』とのタイトルにも相応しい。

 

巻頭の『ご不在票』吉田修一は後味が悪くて好きじゃない。好きじゃないが、なるほどこんなコンセプトね、とわかりやすくはある話。この読後感の悪さを冒頭に配置した構成担当者は凄いと思う。