とうつきの本棚

本に纏わることの記録。

『サヴァイヴ』近藤史恵

近藤史恵が描く自転車サスペンス『サクリファイス』シリーズの短編集。

 

エースのために走るアシストと絡めて自転車レースにおける自己犠牲の様を描いた『サクリファイス』、自転車レース競技者なら誰もが憧れる楽園ツール・ド・フランスでの光と影の物語『エデン』に続く3冊目。

本作『サヴァイヴ』は、2作の語り手・白石を始めとして、白石が加入する前のチーム・オッジの赤城と石尾や、白石の元チームメイト・伊庭が語り手となる短編が6本収録された短編集となっている。

 

特に赤城・石尾ペアの2編と、伊庭の1編が良かった。

白石視点の石尾は、チーム・オッジの確固たるエースであり、何を考えているかわからない不思議な人な印象だった。いや、自転車への執着や真っすぐすぎる信念があるとわかるけど、もはや浮世離れしていて理解できない人だった。そんな石尾がチームに加入してすぐからしばらくの、素顔に近い様子や笑っている様子を垣間見れたのは良かった。当時から執念はすごいけど、あの人も人間だったのだ、と思う。

伊庭の話は事故やロッカー荒らしの真相も興味深いが、初めて登場する家族が印象的だった。そういえば、白石視点での伊庭はただの同じ自転車チームの同僚であり、家庭の話に踏み込むことはない。伊庭の視点になって垣間見る家庭の話は、無断でプライベートを覗き見してしまったような不思議な感覚だった。

 

それぞれは短編なのでさくっと読める。『サクリファイス』シリーズは自転車レースの描写や思いも寄らない結末が特徴的だが、登場キャラクターもそれぞれ魅力的だと思う。彼らの視点で描かれる物語は、これまでの2作が好きな人には絶対おもしろいはず。

 

  • タイトル:サヴァイヴ
  • 著者:近藤史恵
  • 出版社:
  • 読んだ日:2024年4月▽
  • 経路:BOOKOFFで購入