とうつきの本棚

本に纏わることの記録。

2024-01-01から1年間の記事一覧

『スティグマータ』近藤史恵

ドーピングですべての記録をはく奪された選手・メネンコが、5年後のツール・ド・フランスに帰ってきた。資金力のある新チーム、ブーイングと脅迫、彼を恨む人たち。彼の真意はなんなのか。エースの二コラに勝利を導くため、そして新しい契約を手に入れるため…

『キズアマ』近藤史恵

とあるきっかけで部員不足の自転車部に入部した岸田正樹。初心者ながら思わぬ才能を見せ、自転車レースの楽しさにのめり込んでいくが、スポーツと怪我にまつわる過去の後悔に苦しめられる。人が傷つくスポーツを、もう一度やるのか。 主人公の正樹は、当初、…

『サヴァイヴ』近藤史恵

近藤史恵が描く自転車サスペンス『サクリファイス』シリーズの短編集。 エースのために走るアシストと絡めて自転車レースにおける自己犠牲の様を描いた『サクリファイス』、自転車レース競技者なら誰もが憧れる楽園ツール・ド・フランスでの光と影の物語『エ…

『ドキュメント 生還 山岳遭難からの救出』羽根田治

山で遭難・救助された”普通の人たち”へのインタビューを通じて、遭難中の行動や心境、救助の様子を詳しく綴った本。 著者の羽根田氏が、実際に山で遭難・救助された人たちに取材して書き起こした文章。遭難中の様子は物語のように表されており、何を考えてい…

『映画を早送りで観る人たち ファスト映画・ネタバレ――コンテンツ消費の現在形』稲田豊史

一時期話題となった「ファスト映画」や、あちこちの動画サービスで見かける「倍速再生機能」、そして積極的にネタバレを好む人たち。それで作品を鑑賞したと言えるのか、どうしてそれらを好むのかを調査・考察した新書。 先日読んだ廣瀬涼『タイパの経済学』…

『甘々と稲妻/1~12巻』雨隠ギド

男手ひとつで娘・つむぎを育てる高校教師・犬塚は、訪れた料理屋で教え子の女子高生・小鳥と出会う。そうして、料理屋を営む小鳥の母からレシピをもらい、手料理に取り組むご飯会が始まった。つむぎたちの成長と、おいしいご飯のものがたり。 つむぎが可愛い…

『八月は冷たい城』恩田陸

夏流城(かなしろ)での林間学校に参加した四人の少年たちは、初日から様々な悪意にさらされる。首を折られた四本のひまわり、ドアの上から降りかかる鎌――。この古城には見知らぬ五人目が潜んでいるのか、それとも「みどりおとこ」が絡んでいるのだろうか。 『…

『七月に流れる花』恩田陸

夏城(かなし)に転校して来たばかりの中学生・ミチルは、全身緑色の男から招待状を渡されて、一夏の林間学校に参加することになる。六人の少女だけで過ごす静かで奇妙な生活。この林間学校の目的はなんなのか、ミチルは何故呼ばれたのか。 全身緑色の男に追い…

『無印良品は、仕組みが9割』松井忠三

業績低迷状態だった無印良品を復活させた良品計画会長によるビジネス書。業務の仕組み化=マニュアル化の大切さを説く。 「小さな業務もマニュアルに落とし込み、仕組み化することで仕事を効率的に進められる」との考え方が柱。仕組み化の大切さやマニュアル…

『学びのきほん 自分ごとの政治学』中島岳志

遠い世界に感じる「政治」を自分ごととして捉えるための考え方を学ぶ本。 よかった。よい文章だった。 「政治の世界ではよく”右派”や”左派”というけれど、そもそもなんで右とか左とか言うの?」から始まり、哲学者の考え方と政治の関わりや、大きい政府/小さ…

『山岳気象遭難の真実』大矢康裕

豪雨や落雷、豪雪など気象が原因の山岳遭難について、その背景や対策を考える新書。 飛行機事故や山岳遭難の話を読むのが好きだ。当時の状況を精査して原因や今後の対応を冷静に整理した分析は面白い。一方で、事故の悲惨さをセンセーショナルに描いた物語は…

『タイパの経済学』廣瀬涼

最近よく使われるようになった「タイパ(タイムパフォーマンス)」という言葉の意味や背景を、「コスパ(コストパフォーマンス)」との比較やファスト映画を観る心理、さらにはSNS普及による交流方法の変化などから考えた本。 私は「コスパ」は良く使うが「…

『マンガ 会計の世界史』田中靖浩

15世紀のイタリアで簿記が生まれ、オランダで株式会社が誕生し、イギリスで会計監査が始まり――そんな会計の歴史をマンガで面白おかしく学べるビジネス書。 15世紀から21世紀まで、要点に絞ったストーリーとキャッチ―に仕立てられた偉人たちによるマンガは面…

『経営幹部必読! 早わかり IFRS』グローバルタスクフォース

上場企業において今後適用が進むだろう会計基準・IFRS(イファース)について、経営者向けに基礎から説明した解説書。 細かい規則や具体的な作業内容よりも、「IFRSとはなにか?」「どんな考え方の会計基準か?」の解説が詳しい。タイトルにある通り、実務担当…

『羊と鋼の森』宮下奈都

高校の体育館で美しいピアノの音と"調律師"という仕事に強く惹かれた外村は、その憧れをもって調律師となる。調律師の奥深さと外村の成長を、静かに澄んだ文章で綴った美しい物語。 外村は初めてピアノの音と出会った時、目の前に広がる森を見る。この風景描…

『世界でいちばん透きとおった物語』杉井光

書店員の藤阪燈真は、ミステリー作家・宮内彰吾の不倫の末に生まれた子だった。一度も会ったことのない父の病死の知らせを聞いた直後、燈真は遺作と思しき小説『世界でいちばん透きとおった物語』の原稿の捜索を依頼される。果たして原稿は存在するのか、病…

『Shelter』近藤史恵

合田接骨院の受付を務める江藤恵は、一人訪れた東京で訳アリの女性・いずみと出会う。詳しい事情はわからないまま怯えた様子の彼女を匿ううちに、思わぬ事態に巻き込まれていく。合田力シリーズ第3弾。 探偵役の整体師・合田力のもとで働く姉妹の姉・恵にス…

『待つ(乙女の本棚)』太宰治、今井キラ

太宰治の掌編『待つ』に、イラストレーターの今井キラさんが描き下ろしたイラストを添えた文学絵本。 駅前のベンチで何かを待っている女の独白。自分でも何を待っているのか分からずに、それでも毎日ベンチで待ち続ける心境を淡々と語っている。終始ぼんやり…

『その扉をたたく音』瀬尾まいこ

音楽で生きたいと思いつつ、なんの展望もなく実家からの仕送りで暮らす29歳無職・宮地。レクリエーションとしてギターを弾きに訪れた老人ホームで、介護士・渡部の吹くサックスに心を打たれる。彼を音楽の道に誘おうと老人ホームを再訪する中で、利用者たち…

『太陽のパスタ、豆のスープ』宮下奈都

結婚式直前に婚約破棄されてしまった明日羽(あすは)は、自由人な叔母・ロッカさんの勧めでドリフターズリスト(やりたいことリスト)を作る。きれいになる、鍋、お神輿、玉の輿――。自分を見つめ直し、本当にやりたいことを探す物語。 数年ぶりに再読。作中…

『世界一わかりやすい! インボイス』永井圭介

税理士YouTuberによる、読みやすくてわかりやすいインボイス制度の解説書。 「インボイスってあれでしょ、フリーランスの人とかが”消費税を払わなきゃいけないから大変”って一時期騒いでたやつでしょ」くらいの認識の人でも、制度の概略を理解できるようにな…

『茨姫はたたかう』近藤史恵

一人暮らしを始めた書店員・久住梨花子は、引っ越し早々自宅のポストを荒らされる。日に日に色濃くなるストーカーの影、気の合わない隣人、職場でのトラブル――。臆病な優等生だった梨花子が自分の生き方と向き合う、整体師・合田力シリーズ第二作。 前作『カ…

『カナリヤは眠れない』近藤史恵

買い物依存症で多額の借金を抱えた過去のある墨田茜は、新婚の夫から渡されたクレジットカードカードで買い物を繰り返してしまう。身体の重さや不眠で訪れた合田接骨院で、その不調は周りに歪まされているからだと言われるが――。 買い物依存症の描写がとんで…

『お探し物は図書室まで』青山美智子

小さな図書室の司書・小町さんは、利用者の探す本をレファレンスする際、全く異なる分野の本を1冊つけ加える。羊毛フェルトの付録と共に示されたその本は、利用者の悩みや迷いに寄り添い優しく背中を押す。心温まる連作短編集。 主人公は図書室の利用者5人だ…

『夜明けのすべて』瀬尾まいこ

PMSによる苛立ちに苦しむ藤沢さんと、パニック障害による不安と焦燥感に襲われる山添君。普通の生活がままならない二人が出会い、社会での居場所と希望を見つけるまでの物語。 人から借りた本で、最初から読む前に途中をぱらぱらと捲った。ちょうど病気で苦…

『夢十夜(乙女の本棚)』夏目漱石、しきみ

夏目漱石の『夢十夜』に、イラストレーターのしきみさんが描き下ろしたイラストを添えた文学絵本。 いまいち『夢十夜』とイラストがマッチしていなかった。 表紙の金魚の少女の絵は綺麗だと思う。それから、100年待っていて下さいの病床の女の絵と、蕪村の掛…

『アンと愛情』坂木司

デパ地下の和菓子屋「みつ屋」でアルバイトを約2年続ける梅本杏子ことアン。店舗にすっかり馴染んで"このまま変わらなければいいのに"とすら願うアンは、他店からの応援店員や旅行先での出会い、和菓子の調べ物などから新しい気付きを得ていく。"ほの甘ミス…

『アンと青春』坂木司

デパ地下の和菓子屋「みつ屋」でアルバイト店員・梅本杏子ことアン。様々なお客様に対応し、店員たちと過ごす中で、改めて"働くってなにか"を考えていく。"ほの甘ミステリー"な『和菓子のアン』シリーズ第2作。 前作と比べて、人間関係にクローズアップされ…

『月曜日の抹茶カフェ』青山美智子

川沿いにこじんまりと佇むマーブル・カフェ。定休の月曜日に1日だけオープンした「抹茶カフェ」から始まった、東京と京都をぐるりとつながげる心あたたかな短編集。『木曜日にはココアを』の続編。 『木曜日にはココアを』と同じく、短い文章の中に心温まる…

『木曜日にはココアを』青山美智子

川沿いの桜並木を抜けた先、大きな木の陰に隠れるように佇むマーブル・カフェ。こじんまりしたカフェを起点に、リレーのように繋がる人々のあたたかな短編集。 1話1話の文章はとても短くさらっと読める。おそらく1話10分も掛かっていない。そんな短い文章な…