とうつきの本棚

本に纏わることの記録。

小説

『スティグマータ』近藤史恵

ドーピングですべての記録をはく奪された選手・メネンコが、5年後のツール・ド・フランスに帰ってきた。資金力のある新チーム、ブーイングと脅迫、彼を恨む人たち。彼の真意はなんなのか。エースの二コラに勝利を導くため、そして新しい契約を手に入れるため…

『キズアマ』近藤史恵

とあるきっかけで部員不足の自転車部に入部した岸田正樹。初心者ながら思わぬ才能を見せ、自転車レースの楽しさにのめり込んでいくが、スポーツと怪我にまつわる過去の後悔に苦しめられる。人が傷つくスポーツを、もう一度やるのか。 主人公の正樹は、当初、…

『サヴァイヴ』近藤史恵

近藤史恵が描く自転車サスペンス『サクリファイス』シリーズの短編集。 エースのために走るアシストと絡めて自転車レースにおける自己犠牲の様を描いた『サクリファイス』、自転車レース競技者なら誰もが憧れる楽園ツール・ド・フランスでの光と影の物語『エ…

『八月は冷たい城』恩田陸

夏流城(かなしろ)での林間学校に参加した四人の少年たちは、初日から様々な悪意にさらされる。首を折られた四本のひまわり、ドアの上から降りかかる鎌――。この古城には見知らぬ五人目が潜んでいるのか、それとも「みどりおとこ」が絡んでいるのだろうか。 『…

『七月に流れる花』恩田陸

夏城(かなし)に転校して来たばかりの中学生・ミチルは、全身緑色の男から招待状を渡されて、一夏の林間学校に参加することになる。六人の少女だけで過ごす静かで奇妙な生活。この林間学校の目的はなんなのか、ミチルは何故呼ばれたのか。 全身緑色の男に追い…

『羊と鋼の森』宮下奈都

高校の体育館で美しいピアノの音と"調律師"という仕事に強く惹かれた外村は、その憧れをもって調律師となる。調律師の奥深さと外村の成長を、静かに澄んだ文章で綴った美しい物語。 外村は初めてピアノの音と出会った時、目の前に広がる森を見る。この風景描…

『世界でいちばん透きとおった物語』杉井光

書店員の藤阪燈真は、ミステリー作家・宮内彰吾の不倫の末に生まれた子だった。一度も会ったことのない父の病死の知らせを聞いた直後、燈真は遺作と思しき小説『世界でいちばん透きとおった物語』の原稿の捜索を依頼される。果たして原稿は存在するのか、病…

『Shelter』近藤史恵

合田接骨院の受付を務める江藤恵は、一人訪れた東京で訳アリの女性・いずみと出会う。詳しい事情はわからないまま怯えた様子の彼女を匿ううちに、思わぬ事態に巻き込まれていく。合田力シリーズ第3弾。 探偵役の整体師・合田力のもとで働く姉妹の姉・恵にス…

『その扉をたたく音』瀬尾まいこ

音楽で生きたいと思いつつ、なんの展望もなく実家からの仕送りで暮らす29歳無職・宮地。レクリエーションとしてギターを弾きに訪れた老人ホームで、介護士・渡部の吹くサックスに心を打たれる。彼を音楽の道に誘おうと老人ホームを再訪する中で、利用者たち…

『太陽のパスタ、豆のスープ』宮下奈都

結婚式直前に婚約破棄されてしまった明日羽(あすは)は、自由人な叔母・ロッカさんの勧めでドリフターズリスト(やりたいことリスト)を作る。きれいになる、鍋、お神輿、玉の輿――。自分を見つめ直し、本当にやりたいことを探す物語。 数年ぶりに再読。作中…

『茨姫はたたかう』近藤史恵

一人暮らしを始めた書店員・久住梨花子は、引っ越し早々自宅のポストを荒らされる。日に日に色濃くなるストーカーの影、気の合わない隣人、職場でのトラブル――。臆病な優等生だった梨花子が自分の生き方と向き合う、整体師・合田力シリーズ第二作。 前作『カ…

『カナリヤは眠れない』近藤史恵

買い物依存症で多額の借金を抱えた過去のある墨田茜は、新婚の夫から渡されたクレジットカードカードで買い物を繰り返してしまう。身体の重さや不眠で訪れた合田接骨院で、その不調は周りに歪まされているからだと言われるが――。 買い物依存症の描写がとんで…

『お探し物は図書室まで』青山美智子

小さな図書室の司書・小町さんは、利用者の探す本をレファレンスする際、全く異なる分野の本を1冊つけ加える。羊毛フェルトの付録と共に示されたその本は、利用者の悩みや迷いに寄り添い優しく背中を押す。心温まる連作短編集。 主人公は図書室の利用者5人だ…

『夜明けのすべて』瀬尾まいこ

PMSによる苛立ちに苦しむ藤沢さんと、パニック障害による不安と焦燥感に襲われる山添君。普通の生活がままならない二人が出会い、社会での居場所と希望を見つけるまでの物語。 人から借りた本で、最初から読む前に途中をぱらぱらと捲った。ちょうど病気で苦…

『アンと愛情』坂木司

デパ地下の和菓子屋「みつ屋」でアルバイトを約2年続ける梅本杏子ことアン。店舗にすっかり馴染んで"このまま変わらなければいいのに"とすら願うアンは、他店からの応援店員や旅行先での出会い、和菓子の調べ物などから新しい気付きを得ていく。"ほの甘ミス…

『アンと青春』坂木司

デパ地下の和菓子屋「みつ屋」でアルバイト店員・梅本杏子ことアン。様々なお客様に対応し、店員たちと過ごす中で、改めて"働くってなにか"を考えていく。"ほの甘ミステリー"な『和菓子のアン』シリーズ第2作。 前作と比べて、人間関係にクローズアップされ…

『月曜日の抹茶カフェ』青山美智子

川沿いにこじんまりと佇むマーブル・カフェ。定休の月曜日に1日だけオープンした「抹茶カフェ」から始まった、東京と京都をぐるりとつながげる心あたたかな短編集。『木曜日にはココアを』の続編。 『木曜日にはココアを』と同じく、短い文章の中に心温まる…

『木曜日にはココアを』青山美智子

川沿いの桜並木を抜けた先、大きな木の陰に隠れるように佇むマーブル・カフェ。こじんまりしたカフェを起点に、リレーのように繋がる人々のあたたかな短編集。 1話1話の文章はとても短くさらっと読める。おそらく1話10分も掛かっていない。そんな短い文章な…

『和菓子のアン』坂木司

高校を卒業して、デパ地下の和菓子店「みつ屋」でアルバイトを始めた梅本杏子ことアン。個性的な店員に囲まれて働き、お菓子にまつわるちょっと不思議な出来事の謎を考えるなかで、「みつ屋」で働くおもしろさや和菓子の奥深さを知っていく。『和菓子のアン…

『ジヴェルニーの食卓』原田マハ

マティス、ドガ、セザンヌ、モネ――印象派の画家たちの生き様を、周囲の人々の視点から描いた短編集。 本作は印象派の画家たちが実名のまま登場する。物語の登場人物として暮らし、会話し、作品を描く姿は実際の出来事のように感じてしまうが、これは史実を元…

『逃亡テレメトリー』マーサ・ウェルズ

プリザベーション連合で起きた殺人事件を、警備ロボットの"弊機"が調査する物語。『マーダーボット・ダイヤリー』の続編。 今回の"弊機"は、殺人事件の謎解きをする探偵役がメインの働きとなっている。もちろん、これまでも敵の正体と意図を突き止めてきたが…

『そして、バトンは渡された』瀬尾まいこ

女子高生の優子には、親の離婚や再婚によって母親が二人、父親が三人いる。現在は血の繋がらない"父"・森宮さんと二人暮らしをする彼女は、しかし少しも不幸ではない。少し変わった家庭環境で多くの愛情を受けてきた優子へ、バトンが渡されるまでの物語。 困…

『三千円の使いかた』原田ひ香

様々な世代、立場、家族構成の女性たちのお金の悩みを綴った、明るい雰囲気の連作短編集。 私自身が節約や貯金が好きなので、きっと気に入るだろうと思って読み始めた。結果、大正解だった。 舞台は御厨(みくりや)家という一つの家族だ。 散在しがちな独身OL…

『とかげ』よしもとばなな

よしもとばななの、なんとも言えないさみしさ描いた短編集。 残念ながらイマイチ良さがわからなかった。 なんとも言えないさみしさが描かれていることはわかる。妻の待つあまりに美しく理想的な新居に帰りたくない気持ち、幼き日に味わった絶望のせいでどこ…

『ネットワーク・エフェクト』マーサ・ウェルズ

統制モジュールを壊して、実は自由の身である警備ロボットの”弊機”。惑星調査任務からの帰還中見知らぬ宇宙船から攻撃を受けて攫われた”弊機”は、人間たちを守り抜くことができるのか。『マーダーボット・ダイヤリー』の続編である長編SF作品。 前作に引き続…

『エデン』近藤史恵

フランスのプロ自転車チームに所属し、夢のツール・ド・フランスに参加することになった白石誓。しかしチームスポンサーの撤退が噂され、メンバーの心はバラバラになって行く――。『サクリファイス』の続編。 初めて『サクリファイス』を読んだとき衝撃を受け…

『マーダーボット・ダイアリー 上/下』マーサ・ウェルズ

統制モジュールをハッキングした人見知りの人型警備ロボットが、顧客たちの安全を守るために戦うSF作品。 主人公"弊機"のキャラクターがいい! ※"弊機"とは主人公の一人称。弊社などへりくだった言い方の"弊"に、ロボットなので"機"を加えたもの。 契約者の…

『52ヘルツのクジラたち』町田そのこ

家族から虐待・搾取を受けてきた女性・貴湖は、とある事件をきっかけに遠く離れた田舎に引っ越す。そこで出会った母親に虐待されている少年との、孤独と愛の物語。 私にしては珍しく、装丁の美しさと"本屋大賞受賞"とのネームバリューだけで選んだ。文庫版を…

『パンとスープとネコ日和』群ようこ

母が経営していた食堂を改築して、パンとスープのお店を始めたアキコ。飼い猫タロとアルバイトのしまちゃんと、おいしいご飯と生い立ちの物語。 同著者の『かもめ食堂』同様に、おいしいご飯屋さんの経営とその周りの人たちのお話だった。料理に使う具材や調…

『天国はまだ遠く』瀬尾まいこ

なにもかもうまく行かず、山奥の民宿で服薬自殺を図るも死にそびれた千鶴。民宿の管理人・田村さんの大雑把さや豊かな自然に癒されていくが……。 都会で疲れた人が田舎で癒やされる物語は多い。そのほとんどは、田舎の美しさにただ癒やされて都会に戻るか、田…