とうつきの本棚

本に纏わることの記録。

『映画を早送りで観る人たち ファスト映画・ネタバレ――コンテンツ消費の現在形』稲田豊史

一時期話題となった「ファスト映画」や、あちこちの動画サービスで見かける「倍速再生機能」、そして積極的にネタバレを好む人たち。それで作品を鑑賞したと言えるのか、どうしてそれらを好むのかを調査・考察した新書。

 

先日読んだ廣瀬涼『タイパの経済学』で参考図書となっていた本書。気になったので読んでみた。

作品そのものを楽しむ「作品を鑑賞」ではなく、作品を通じて実益を得る「コンテンツを消費」になったとき、タイパを意識しファスト映画や倍速視聴に走る、という考え方には納得。その情報を知っていることで友達との会話についていける。でもSNSの発達でコミュニケーションの輪は昔より広がって、より多くの話題をキャッチしなくてはいけない。テレビは一家に一台だった時代とは異なり、手元には一人一台のスマホがある。動画サービスには倍速視聴や10秒飛ばし機能がある――。

なるほど、倍速視聴が持て囃されるわけである。

 

考察内容には頷ける一方、論調が基本的に若者批判なのは読んでいて引っ掛かった。例えば、大学生へのインタビューでは、その回答をいちいち貶す。

「心情もの」とそうでないものの区別は、どの時点で、どのような基準でつけるのか。疑問は尽きない。

(中略)

何が悪いんですか、という顔をされてしまった。

(第1章 早送りする人たち――鑑賞から消費へ/p.46)

まず「倍速視聴をするなんてけしからん!」という感情があり、これを補完するための情報を集めている印象だった。映像を倍速視聴はNGとしながら書物の速読や抄訳は許容しているが、その理由もいまいち。新しいサービスや若者を批判することに注力しているように感じる。遥か昔から続く「最近の若者は…」である。

ただ、最終章では映画館で見ていた映画をテレビで見るように、演奏を生音ではなくレコードで聞くようにと時代は変わり、その度新しい何かが批判されてきたと書いている。だから、倍速視聴も作品鑑賞のいちバリエーションになっていくのかもしれない、とも。着地点はよかった。

 

先に読んだ『タイパの経済学』の方が、よりフラットな視点で倍速視聴やタイパと向き合っている。語調もやわらかくて読みやすかった。

視点と論点は面白いが、批判的な論調と若者批判が読んでいてややしんどい。対象読者が批判好きな中年以上なのだろうか。

 

  • タイトル:映画を早送りで観る人たち ファスト映画・ネタバレ――コンテンツ消費の現在形
  • 著者:稲田豊史
  • 出版社: 光文社新書
  • 読んだ日:2024年4月▽
  • 経路:図書館で借りて