とうつきの本棚

本に纏わることの記録。

『キズアマ』近藤史恵

とあるきっかけで部員不足の自転車部に入部した岸田正樹。初心者ながら思わぬ才能を見せ、自転車レースの楽しさにのめり込んでいくが、スポーツと怪我にまつわる過去の後悔に苦しめられる。人が傷つくスポーツを、もう一度やるのか。

 

主人公の正樹は、当初、無気力系で斜に構えた大学生かと思っていた。しかし、自転車に乗り始めるとめきめきとその頭角を現してのめり込んでいく。なんだ、結構熱い人なんだと思った。

責任感の強さというか、贖罪意識の強さも意外。文庫版裏面のあらすじに「中学時代の辛い記憶が蘇る。二度と誰かを傷つけるスポーツはしたくなかったのに――」とあったので、自分のミスで誰かを再起不能にして公開しているのかと思ったが、それも微妙に違った。正直、その出来事は正樹のせいじゃないし、私が同じ立場だったら付き合いは続いていない。贖罪意識で続ける友人付き合いって辛くない?

 

私は自転車レースをやったこともなければ見たこともない。それでも違和感なく自転車レースの考え方や動き方をするっと理解できる描写はさすが近藤史恵さんだと思う。同著者の自転車サスペンス『サクリファイス』シリーズは既にプロとしてレースを走る選手たちの物語なので、完全初心者の正樹がひとつひとつに驚きながら自転車に慣れ親しんでいく様子は、改めて自転車レースについて学べてよい。

でも、好きなのはやっぱり『サクリファイス』シリーズだな。『キズアマ』のキャラクターは全体的に柄が悪くて魅力を感じない。学生ならではの青さもいまいち感じられなかった。そこらへん、『サクリファイス』のキャラクターはプロ選手としての真摯さと共に覚悟や執着や切迫感なんかがあって良かった。伊庭と白石の「なんだよ、なんでこんなところにいるんだよ」からの「だから、一度、試してみる」の方がよっぽど青春を感じたし。

自分自身が勝負ごとに熱くなれない方なので、アシストを好む白石の一歩引いた考え方の方が性に合うのもある。

 

タイトル「キズアマ」に繋がるであろう描写は良かった。染色体の交換が起こった部位。なるほど。

 

  • タイトル:キズアマ
  • 著者:近藤史恵
  • 出版社:新潮文庫
  • 読んだ日:2024年4月▽
  • 経路:BOOKOFFで購入