とうつきの本棚

本に纏わることの記録。

『スティグマータ』近藤史恵

ドーピングですべての記録をはく奪された選手・メネンコが、5年後のツール・ド・フランスに帰ってきた。資金力のある新チーム、ブーイングと脅迫、彼を恨む人たち。彼の真意はなんなのか。エースの二コラに勝利を導くため、そして新しい契約を手に入れるために奮闘する白石も、その騒動に巻き込まれていく。『サクリファイス』シリーズ第4作。

 

あいかわらずおもしろい。

これまでの作品が不穏さはありつつも突然事件が起きたのに対して、本作は最初から事件の気配が強い。起こるべくして起こった事件だろう。

メネンコが今までにないほどヒールとして描かれたのも印象的。過去のドーピングの真偽は分からないが、人間としてうっわ…と感じる点がいくつもある。自転車への情熱は確かだったのかもしれないけど、今も昔も、周りを駒としか見ていないのだろうな。

 

既作の登場キャラクターが立場を変えて再登場するのが楽しい。前作『エデン』で同じチームのエースだったミッコが敵チームの、敵チームのエースだったニコラが同じチームのエースとして登場する。長らく彼のアシストだったからわかるミッコの表情の変化などわくわくする。

『サクリファイス』で同じチームのメンバーだった伊庭と共に、ツール・ド・フランスを走り抜けるのも熱い。当時タイプの違う選手だと評されたように、今回も二人の立場は対称的だ。長らくヨーロッパで走ってきたアシストの白石と、初めてツール・ド・フランスを走るスプリンターの伊庭。白石はツール・ド・フランスへの参加こそ早くに決まったが、アシストの働きを期待されており来期の契約に繋がるような自分のための走りはできない。伊庭はチャンスを掴むため多少無理をしてでも自ら動く必要があるが、スプリンターとしてレース中の自由度はそれなりに高い。どちらも相手を羨むような気持ちはありそう。それでも、自分は自分だと切り替えられる強さもありそうだ。

 

メネンコの真意は途中からなんとなく読めてしまったが、まさかあんな終わり方をするとは思わなかった。白石の引退まではもう少しありそうなので、続刊に期待したい。

 

 

本作を読み終わってから、第1作『サクリファイス』を改めて読み直した。あれから長い月日が経ち、白石と伊庭はツール・ド・フランスを走る。第15レースの白石のアシストと、第8レースの伊庭のスプリント……石尾さんも喜んでいるだろうよ!満足そうに笑っているだろうさ!!という気持ちになった。

 

  • タイトル:スティグマータ
  • 著者:近藤史恵
  • 出版社:新潮文庫
  • 読んだ日:2024年4月▽
  • 経路:図書館で借りて