とうつきの本棚

本に纏わることの記録。

『ほどよい量をつくる』甲斐かおり

作れば作るほど、売れれば売れるほど良いとされる大量生産・大量消費社会。

そのために過剰なほど働いたり、売れ残ったものが捨てられたり、無理な値引きを強いられたり、商品がどうやって作られたものかわからなかったり……。それって本当に必要ですか? もっと「ほどよい量」をつくることはできませんか? そう問い掛けられる本。

 

著者が長年取材してきた様々なつくり手や売り手から、「ほどよい量」に対する取り組みをしている人たちを紹介している。

特に気になったのは、「佰食屋(ひゃくしょくや)」のオーナーの中村朱美さん。毎日「100食しか提供しない」と決めていて、三種類のメニューを、お昼の営業で売り切る。大きく儲からない代わりに、残業なしで家族そろって晩ごはんを食べられる生活を保証する……というスタイルらしい。

私はそれなりに働いてそれなりに生きていきたい。がむしゃらに働いてゴージャスに生きたいとはとても思わない。だから、大きく手を広げ過ぎずに生きていける、このスタイルがとても良いと思う。もちろん、それがずっと続く保証はないとか、流行り廃りで淘汰されてしまう可能性もあるとか、大きくしないことによる不安はあるのだけれど。

 

ちなみに、「ほどよい量」とは単なる「少量生産」を指しているわけではない。

ここでいう「ほどよい量」とは、(中略)需給のバランスを取った適正量のことを言っている。

世の中に求められる量、たくさん捨てなくて済む量、つくり手の温度感の伝わる量、働き手に無理のない量、文化を維持できる量……とそれぞれの視点によるほどよい量がある。まずは既存の生産量に対して、自分の仕事のほどよい規模を考えることからすべてが始まるのではないかという提案でもある。 Ⅰつくる量と価格を決める 2章ほどよい量を探る(P.40)

 

例えば、少人数で量産するために種類を絞ったパン屋や、伝統的な手染めを量産して遺していく方法を考えた染色屋や、新規就農者の有機野菜をまとめて扱う商社や……といった様々な取り組み、企業が数多く紹介されている。

みな理念を持って仕事に取り組む様子がわかり、読んでいて楽しい。また、ひとつひとつの章は短めで、ぱらぱらと読みやすい。

 

私は「たくさん捨てなくて済む」世界が実現して欲しいと思っている。

それは、むかしアルバイトの小売業で毎日大量の廃棄商品をゴミ袋に詰め込んだ経験だったり、シーズンごとに大量に作っては売れ残りを廃棄する洋服の話を聞いたショックだったり……からそう考える。少しでも「ほどよい量」について考える人が増えればいい。この本は、そのきっかけになりうると感じた。

 

  • タイトル:ほどよい量をつくる
  • 著者:甲斐かおり
  • 出版社:インプレス
  • 読んだ日:2022年12月~2023年1月◇
  • 経路:新古書店で購入