「八年後に小惑星が衝突して、地球は滅亡する」
そんな情報によって世界中に溢れる暴動、略奪、殺人、自殺……荒れに荒れてから五年。終末まであと三年。
小康状態が訪れた仙台のとある団地を舞台にした、重なり合う短編集。
本が寄贈できるホテル「BUNSHODO HOTEL」で手にした本。
タイトルは知っていたし、なんなら妹の本棚にはあった。でも読んだことはなかった。
本に挟まれた寄贈者のコメントに「どことなくコロナと重なる部分がある」と書かれていて、はっとした。
新型コロナウイルスが流行したところで、幸いにも世界が終わるわけじゃないし、少なくとも日本では暴動や殺人は起こっていない(はず)。でもこの閉塞感は、近しいものがあるかもしれない。ガラスを割っての略奪は起きなかったけど、トイレットペーパーの奪い合いはあったわけで。
本の感想を語り合う機会は減ってしまった。でも、このコメント共にこの本に出会えて良かったと思う。
描かれる小康状態の街は、静かなのに歪な空気感が漂っていて、良い意味で気味が悪かった。団地で起こるのも、きっと普段なら小さな波風程度の出来事だと思う。それでも”終末”と”死”がすぐ近くにあることで、ひどく変な気分になる。
語り手が団地のリビングを描写するのと同じ温度で「母を襲おうとした暴漢を、勢い余って父が撲殺した」とか言い出すし、平穏な家族の食卓に並ぶのはどこぞの倉庫から盗み出してきた缶詰だったりする。日常とか正常とかいったものが、静かに壊れた後なんだな、と思う。
混乱とパニックに陥った街で、私は狂わずに五年間生き延びることができるだろうか。