とうつきの本棚

本に纏わることの記録。

『世界でいちばん透きとおった物語』杉井光

書店員の藤阪燈真は、ミステリー作家・宮内彰吾の不倫の末に生まれた子だった。一度も会ったことのない父の病死の知らせを聞いた直後、燈真は遺作と思しき小説『世界でいちばん透きとおった物語』の原稿の捜索を依頼される。果たして原稿は存在するのか、病魔に蝕まれながらも書きたかった作品とは――。

 

帯に書かれたアオリ文句「電子書籍化絶対不可能!? "紙の本でしか"体験できない感動がある!」は本当だった。まさしく紙の本だから面白い作品。謎解きシーンで真相がわかったとき、思わず鳥肌が立った。感動というよりは、よくこんなことやったな……という、半ばドン引きから来る鳥肌だったが。いや、でも凄い。

 

紙の本ならではの点が素晴らしい一方で、ストーリーや登場人物はあまり好みではなかった。

読み始めてからラノベっぽいな、との感想を抱いたが、その通り『神様のメモ帳』などを執筆したライトノベル作家だった。事前情報なしでも感じた文章の軽薄さや乱雑さは、年配の読書家の方には勧めづらい。せっかく構成は面白いのに勿体ない。

特にラノベっぽさを感じたのは主人公の設定や立ち振る舞いだ。無気力気味な青年なこと、周囲からやってきた厄介事に文句だけは一丁前に述べながら取り組むこと、重めの過去があること、努力なしの才能があること――この辺りがいかにもラノベでうわぁ…と思った。

登場キャラクターが全体的に薄っぺらくて魅力に欠け、"紙の本"に係る点以外のトリックにこじつけ感があるのも残念。

 

既読の人と「まさしく紙の本ならではだよね!」と盛り上がりたい一方、ストーリーやキャラクターといったメイン部分が好みでないため勧めづらい。誰か、勧めなくても自分で選んで読んだ人と感想を言い合いたい。

 

  • タイトル:世界でいちばん透きとおった物語
  • 著者:杉井光
  • 出版社:新潮文庫nex
  • 読んだ日:2024年2月▽
  • 経路:フリマアプリで購入
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