合田接骨院の受付を務める江藤恵は、一人訪れた東京で訳アリの女性・いずみと出会う。詳しい事情はわからないまま怯えた様子の彼女を匿ううちに、思わぬ事態に巻き込まれていく。合田力シリーズ第3弾。
探偵役の整体師・合田力のもとで働く姉妹の姉・恵にスポットを当てた作品。これまで妹・歩と比べて登場シーンの少なかった恵の過去や心の傷に深入りできたのは良かった。また、塞ぎ込んで弱々しい印象だった妹が行動したり決意したりと頑張る姿も良かった。
……でも良かったのはそれくらいで、本作は合田力シリーズで一番ぼやっとした印象の物語だった。
このシリーズの魅力は、女性たちの傷や歪み、苦しみの描写がリアルで心に迫ってくることだと思う。自身が歪んでいることすら気付かずに振る舞う姿があってこそ、整体や対話を通じて立ち直っていく姿も魅力的となっていた。本作主人公の恵は、合田先生の下で働いており自身が歪んでいることには気付いている。そのためどこか達観した描かれ方で、立ち直りもぼやっとした印象になってしまっている印象だった。傷から血が流れ出すような、痛々しさのあったこれまでの作品とは異なる。
(以下、ややネタバレ)
また、恵と出会う女性・いずみの自分勝手さにも辟易とした。過度なネタバレをしない範囲で書けば、かなりの身勝手で、度を越すほどの虚言癖があり、自ら悪い方へ悪い方へと舵を切っては周りに迷惑を掛ける。いくら心理的に参っていたからといってその態度はどうだろう?
本作が合田力シリーズ3部作の最終巻だと考えると、風呂敷を広げるだけ広げて閉じずに終わった印象もある。今回は新しい描写――合田先生と敵対する男性の登場、恵が整体を施すシーン、先生が苦手なことの発見など――も多かった。次作に繋がる設定と思いきや、ここでこのシリーズは終わり。尻切れトンボ感が否めない。
ずっと前から好きだった『カナリヤは眠れない』の続編としてシリーズ3作を読んで来たが、結局一番面白かったのは『カナリヤは眠れない』だった。まあ、シリーズ物って第一作が一番出来がいいものか。
- タイトル:Shelter
- 著者:近藤史恵
- 出版社:祥伝社文庫
- 読んだ日:2024年2月▽
- 経路:図書館で借りて