とうつきの本棚

本に纏わることの記録。

『プラネタリウムの外側』早瀬耕

"ぼく"と南雲が開発した、有機素子コンピューター・IDA-Ⅺを用いた会話プログラムを取り巻く物語。

 

冒頭数ページは、読む小説を間違えたかと思った。斜に構えた男主人公は意味の分からないことを言い出すし、寝台列車に乗る"ぼく=北上"と"彼女=尾内"以外に、物語の仔細を決定するらしい"彼"が頻出する。……いや、"彼"って誰?
意味の分からなさとエセ村上春樹のような文体にイラつきながら読み進めると、すぐに種明かしが始まる。これは共に大学の助教である"ぼく"と南雲がプログラミングした会話プログラムによる、自律的会話のテストの一貫らしい。なるほど、プログラム内の"ぼく"が、素因数分解を瞬時にやってのけたのはそのせいか。あれ、でもそうすると"彼"を認識している"ぼく"って……?
工学者の"ぼく"と寝台列車に乗る"ぼく"がそれぞれに話を進めるなか、一作目の『有機素子ブレードの中』は予想外の結末を迎える。

 

この小説は分類が難しい。AIやプログラミング、それらと交わる世界の話と見ればSFだ。しかし、少し不思議なファンタジー要素もある。その不思議を怪奇現象と取り、人が狂いかける様を見ればホラーでもある。いや、それらの現象と絡む友情や恋愛感情の機微を描いた物語か……?
文庫版の裏面に記載された言葉は「恋愛と世界についての連作集」。なるほど、それしか言えないのかも。

 

特に表題作の『プラネタリウムの外側』が良かった。前2作品のやや狂気に飲まれるエンドとは異なり、切なくも青春を感じるストーリーとなっている。しかし、作品全体の種明かし編でもある『夢で会う人々の領分』を読むと、見え方が変わってくる。これがAIの学習の結果だとしたら…? もし、自己設定した報酬が逆だったら…?

果たしてAIに知性は宿るのか。通読後に読み返して、考察したくなる作品。


なお、作中で1990年代に構築されたと語られる有機素子コンピューター・IDA-Ⅺは、同著者の作品『グリフォンズ・ガーデン』に登場するIDA-10の後継機のことだろう。『プラネタリウムの外側』にはリストバンド型のウェアラブルコンピューターが登場するので、おそらく2020年頃。1990年頃を描いた『グリフォンズ・ガーデン』からはかなりの時間が経過している。

それでも有機素子コンピューターの名前や、『グリフォンズ・ガーデン』で主任研究員を務めていた藤野が大学教授になっているなど、僅かな繋がりを感じられて面白い。

時系列的には『グリフォンズ・ガーデン』→『プラネタリウムの外側』だが、どちらから読んでも問題ない。個人的には『プラネタリウムの外側』から読んだ方がまだとっつきやすいと思う。

 

  • タイトル:プラネタリウムの外側
  • 著者:早瀬耕
  • 出版社:早川書房
  • 読んだ日:2023年1月◇
  • 経路:図書館で貸出
  • その他:2022年12月に宿泊した「BOOK HOTEL 神保町」にて、本作の約30年前を描いた前作『グリフォンズ・ガーデン』と出会った。それをきっかけに読んだ本。

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