とうつきの本棚

本に纏わることの記録。

『グリフォンズ・ガーデン』早瀬耕

恋人ともに札幌へやってきた"ぼく"。就職先の知能工学研究所で、"ぼく"は有機素子コンピューターIDA-10の中にひとつの世界を創り出す。

 

物語は「PRIMARY WORLD」と「DUAL WORLD」の2つの軸を持って進む。
最初は意味がわからなかったが「PRIMARY WORLD」を読み進めると状況が掴めてくる。2つを日本語訳するなら「主要な世界」と「二元的な世界」となるので……なるほど。
更に読み進めると、段々世界が曖昧になっていく。作られた世界で、人は世界に疑問を抱くだろうか。作られた世界で、創造主の意図せぬ疑問を抱く人は、自発的な意識を持ったと言えるだろうか。では、私たちは、自発的な意識を持っているだろうか。

 

"ぼく"の思考である地の文や、作中で登場人物が交わす雑談は、学問的で難解な話題がほとんどである。
作中のテーマであるコンピューターやAIについての説明はともかく、カフェテリアで恋人と話す内容が「地動説は正しいか否か」だったりする。例え話やジョークにも学説や偉人名が用いられ、彼らの会話を正しく理解することは、私には不可能だった。難解な文章は目で追うに止め、ばーーっと読み進めていく度胸が必要。正しく理解できる人は知識があってすごい。

 

物語の方向性は予想の範囲内だったが、結末は予想外だった。単なる入れ子ではなく、世界が揺れ動き混じり合う感覚が、同著者の作品『プラネタリウムの外側』に通ずるものを感じる。

 

本作『グリフォンズ・ガーデン』は1990年頃の有機素子コンピューターIDA-10を中心とした作品、『プラネタリウムの外側』は2020年頃?の有機素子コンピューターIDA-Ⅺを取り巻く作品だ。舞台は同じ札幌で、一応関連性はあるが、なにせ約30年後の物語である。どちらから読んでも問題ない。

また、初版『グリフォンズ・ガーデン』は1992年刊行されたらしい。『プラネタリウムの外側』の発売により復刻希望の声が寄せられ、大幅改稿の上で文庫化されたのが本作らしい。紹介分には「『プラネタリウムの外側』の前日譚」とも書かれており、『プラネタリウムの外側』から先に読んでも問題ないだろう。

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  • タイトル:グリフォンズ・ガーデン
  • 著者:早瀬耕
  • 出版社:早川書房
  • 読んだ日:2023年1月◇
  • 経路:図書館で貸出
  • その他:出会ったのはBOOK HOTEL 神保町の室内にて。表紙から爽やかな物語かと思っていたが、全然違った。

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