とうつきの本棚

本に纏わることの記録。

『ジヴェルニーの食卓』原田マハ

マティス、ドガ、セザンヌ、モネ――印象派の画家たちの生き様を、周囲の人々の視点から描いた短編集。

 

本作は印象派の画家たちが実名のまま登場する。物語の登場人物として暮らし、会話し、作品を描く姿は実際の出来事のように感じてしまうが、これは史実を元にしたフィクションである。

「いやいや、これが史実って勘違いしちゃいそうになるよ!実在の人物で架空の物語を書いていいの!?」なんて一瞬慌ててしまったが、NHK大河ドラマを思い出して落ち着いた。思えば、時代劇なんて99%がそんなもんだ。画家が題材の物語を初めて見たので取り乱してしまった。

 

本作は短編4編が収録されている。晩年のマティスとマグノリアの花を描いた『うつくしい墓』、躍動的な踊り子を描いたドガの彫刻作品にまつわる『エトワール』、印象派を支えた画材屋タンギー爺さんの娘とセザンヌの手紙のやりとり『タンギー爺さん』、後妻の連れ子の視点からモネの世界を見る目とおいしいご飯を描いた『ジヴェルニーの食卓』。

上記はわかったように書いたが、私はもともと「美術館で見るならモネとセザンヌの絵が好き」程度の美術知識しかなかったため、作中で人名や作品名が登場する度にスマホで検索しながら読み進めた。具体的な人名や店名、作品名が描写される人・物はそれぞれ実在しており、「おお、これが美術版大河ドラマ」といちいち感動した。ちゃんと予備知識がある人なら、もっと楽しめるんだろうな。

 

作者の原田マハさんは、作家になる前キュレーター(美術館や博物館などで展示する作品の企画から運用までを行う人、だそう)をやっていたそうで、その知識が惜しみなく注ぎ込まれていると感じた。インテリな人かと思えば、エッセイは旅好き・おいしいもの好きな明るい人柄が見えて面白い。

そういえば、モネの「ジヴェルニーの食卓」ではおいしそうなご飯の描写が多く登場する。この辺は作者の影響かしら。

 

もともとモネの絵が好きなこと、人の温かさを感じられること、画家自身の描写が多いことから、4作の中では表題作「ジヴェルニーの食卓」が一番好き。次点で、心を掴まれる運命の人に出会ってしまった明るさと切なさが胸に迫る「うつくしい墓」が好きだった。

 

  • タイトル:ジヴェルニーの食卓
  • 著者:原田マハ
  • 出版社:集英社
  • 読んだ日:2024年1月▽
  • 経路:父から借りて

 

著者のエッセイ

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