とうつきの本棚

本に纏わることの記録。

『和菓子のアン』坂木司

高校を卒業して、デパ地下の和菓子店「みつ屋」でアルバイトを始めた梅本杏子ことアン。個性的な店員に囲まれて働き、お菓子にまつわるちょっと不思議な出来事の謎を考えるなかで、「みつ屋」で働くおもしろさや和菓子の奥深さを知っていく。『和菓子のアン』シリーズ第1作。

 

和菓子×ミステリーとの触れ込み読み始めたが、何よりも「デパ地下アルバイトの描写」が秀逸。

食品フロアのフロア長の仕事場が階段下の天井が斜めになった部屋だとか、従業員入口から更衣室までのバックオフィス描写だとか、日中のレジ精算、お中元の盛り上がり、夕方タイムセール、売れ残り商品の行方……などなど。デパ地下での仕事風景が丁寧に描かれていて、わくわくする。

私の大学時代のアルバイトは小売業で、店長室は天井が斜めの階段下スペースだった。出勤時に通る通路でもあり、タイムカードを押すために腰を屈めて歩いたことを思い出す。些細な描写がリアル。

 

和菓子の描写も綺麗でいい。作中オリジナルと思われる上生菓子の描写は、美しい名前と見た目、それに食べることが大好きなアンによる食レポがさらりと書かれる。歴史ある和菓子は由来や逸話も詳しい。自然と和菓子への理解が深まる。

 

肝心のミステリー要素のおもしろさは……正直作品による。私は第1〜3話の謎解きは好みでなかった。特に、第1話はいかにも創作作品のやり過ぎな設定で、毎度こんなこじつけのミステリーが展開されるのかと辟易とした。わざわざ"落とし文"でそんなことやる???

一方、第4〜5話の謎解きはおもしろかった。思えば和菓子の謎に固執せず話題がデパ地下フロアに広まり、アンが自分で謎を考え出したのがこの辺りだと思う。その影響かな? 物語全体としても、第4話が一番好きな話だった。これまでの話の伏線を回収しに掛かった姿勢と、食品小売として避けては通れない問題を題材にしており楽しめた。「金の林檎」の問題はね……本当にね……。伝統的で古風と思われがちな和菓子の自由さもわかって楽しかった。

 

最初は騒がしすぎて苦手だったアンの一人称視点も、慣れれば愛おしくなってくる。18歳の目線から見た接客業は新鮮さに溢れているし、素直で明るいアン視点だからこそ朗らかに読書を楽しめるのだと思った。アンは本当に食品小売業に向いてるなぁ。

 

  • タイトル:和菓子のアン
  • 著者:坂木司
  • 出版社:光文社文庫
  • 読んだ日:2024年1月▽
  • 経路:BOOKOFFで購入
  • その他:職場の先輩がシリーズ第三作『アンと愛情』を貸してくれたので、その前段階として。