始終不穏な空気の漂う、働く人たちの仕事とご飯の物語。
この本の説明は、公式の内容紹介が秀逸すぎる。これ以上の文章が浮かばない。
第167回芥川賞受賞!
「二谷さん、わたしと一緒に、芦川さんにいじわるしませんか」
心をざわつかせる、仕事+食べもの+恋愛小説。職場でそこそこうまくやっている二谷と、皆が守りたくなる存在で料理上手な芦川と、仕事ができてがんばり屋の押尾。
ままならない微妙な人間関係を「食べること」を通して描く傑作。
”心をざわつかせる”というフレーズがぴったり。どこか薄暗くて、やり場のないモヤモヤが募って、でもとてもじゃないけれど「創作だから私には関係ない」なんて突っぱねられない。多かれ少なかれ、これは現代日本のあちこちで見られる光景なんだろう。この不穏さは自分の隣にもあるんだろうと感じるざわつきだ。
人物紹介もいい味出している。決して嘘は言っていない。嘘は言っていないのだが、物事のほんの薄い表層にだけ宿るうつくしい部分のみをうまーく切り取った紹介文である。読了後に読み返すと笑ってしまう。
芦川(女性)が本当にいいキャラしている。ここまででなくとも「あ~~いるいる、こーゆう人」と思わせる人物像になっている。可愛くて弱くてみんなが守ってあげなきゃと思わせる存在。箱入りのお嬢様みたいな。取引先に大声で怒鳴られたことがトラウマで、電話応対やクレーム処理は誰かに変わってもらう。体調が悪くなって早退することが多い。いつもにこにこ笑って相槌で「すごーい」なんて言う。つらいことを頑張らなくても、周りの人が助けてくれる。……まずい、書いていてむかついてきた。
周囲の人が芦川にメロメロで甘やかしているのではなく、少なくとも口では「仕方ないだろ」と言っているのがリアルだった。具合が悪いって言ってるのに早退させないとパワハラになる。それもそうだろう。よくありそうだ、こんな話。
私は仕事を真面目にやりたいと考える女性なので、押尾(女性)の考えに一番共感した。
ずるい。でも、自分がそうなりたいわけじゃない。
仕事をする多くの人が抱えている感情だと思う。それを発露させるかは別として。
そして私はおいしいものを食べるのが好きなので、二谷(男性)の食事に対する考え方はいまいち理解できない。ただ、ジャンクフードが食べたいとき、訳知り顔で「そんなの身体に悪いよ!」と言われたら滅茶苦茶ムカつくだろうな、とは思った。女の好みは全く理解できない。
心がざわざわしたまま終わるので、読後感は良くない。ただ、このモヤっとした気持ちを誰かにわかってほしい、と思ってしまう。
読み終えてから再び眺めたタイトルは、ひどい皮肉だな、と感じた。