とうつきの本棚

本に纏わることの記録。

『52ヘルツのクジラたち』町田そのこ

家族から虐待・搾取を受けてきた女性・貴湖は、とある事件をきっかけに遠く離れた田舎に引っ越す。そこで出会った母親に虐待されている少年との、孤独と愛の物語。

 

私にしては珍しく、装丁の美しさと"本屋大賞受賞"とのネームバリューだけで選んだ。文庫版を入手して裏面のあらすじを読むまで、ストーリーは知らなかった。本屋大賞は優しく穏やかな作品が多い印象があって、想像とは全く異なった。

 

児童虐待やネグレクト、ヤングケアラーに不倫、殺傷事件……重々しい話題が続く。特に2人分の児童虐待描写が細かくてなかなかしんどかった。また、大人の身勝手で自己中な悪い部分詰め合わせ!な内容が重い。優しかった人も状況によっては立場が豹変し、害ある存在になってしまうのも悲しかった。

 

さみしさに寄り添う感動作として持て囃されているが、イマイチ感動できなかった。そりゃ、主人公・貴湖が家を出た場面と、最後少年と心を通わせる場面ではぐっと来たがそれくらい。

私は幸いにして親に愛され、痴情のもつれとは無縁で生きてきた。だから実感が湧かないのかもしれないが、貴湖の不幸は物語の主人公として盛りすぎでは?と思ってしまう。一昔前のケータイ小説の、普通の女子高生が引くほどの不幸に見舞われるストーリーを思い浮かべた。作り上げられた完膚なき可哀想な主人公には、乾いた「大変だね」の言葉しか掛けられない。

また、親元での虐待とネグレクトに関しては被害者だけど、その後の不倫に纏わるゴタゴタは自業自得で冷めた。貴湖が相手を不幸にする立場となり、私が悪いんだ贖罪だとさめざめ泣きながらそれでも被害者意識があるのが……。アンさんにも主税にも悪いところはあったけど、貴湖といることで狂った感がある。付き合う男を駄目にする女っているけど、貴湖ってそうなんじゃないの……。

 

内容には共感できなかったが、文章は読みやすかった。貴湖の選択にイライラしても、するすると読める文章は私に合っているのだろう。これで内容も好きだったらなぁ…。

 

  • タイトル:52ヘルツのクジラたち
  • 著者:町田そのこ
  • 出版社:中公文庫
  • 読んだ日:2023年11月◇
  • 経路:フリマアプリラクマで購入