とうつきの本棚

本に纏わることの記録。

しがないOLになって、瀬尾まいこが沁みる

今週のお題「最近読んでるもの」

はてなブログの今週のお題は「最近読んでるもの」らしい。私が最近読んだ本は、このブログの記事タイトルをざっと眺めて貰えれば瞬時にわかる。通読した本は記録も兼ねてほぼ全て載せているからだ。

ただ、それじゃあお題記事としてあんまりだから、最近読んで改めてその良さがわかった著者さんを紹介したい。「瀬尾まいこ」さんだ。 ※以下敬称略。

 

瀬尾まいこは『卵の緒』(2002年)でデビューした小説家で、映画化された『天国はまだ遠く』や『幸福な食卓』、2019年本屋大賞を受賞した『そして、バトンは渡された』などを執筆している。

 

私が瀬尾まいこと出会ったのは中学校の図書館だったと思う。ハードカバーの『卵の緒』と『図書館の神様』を借りて読んだ。

読んだ感想は「読みやすい文章だな」程度だった。さらっと読めて読後感も悪くないけれど、あまり印象に残らない。十数年経った今はともかく、当時も本の内容をすぐに忘れてしまった気がする。

 

その後あまり本を読まなくなり、もう一度本を楽しみたいとこのブログを立ち上げたのが去年。読んだことがある著者だからと手に取ったのが今年。久しぶりに読んでみて「何気ない優しさが沁みるなぁ」としみじみ感じた。

 

連作小説『強運の持ち主』は、元営業OLの占い師・ルイーズ吉田が、ショッピングセンターの片隅で出会う人たちの悩みを解決していく話だ。

占いにやってくるお客さんたちの第一印象は、正直良くない。一癖も二癖もあり、営業で鍛えた話術で占うルイーズ吉田は振り回される。しかし話を読み進めると、それぞれのお客さんの優しさや心遣い、いじらしさが心に沁みて、いつの間にか彼らを好きになっている。大きな事件など起こらない、身の回りの何気ない出来事を重ねた物語は、穏やかな気持ちで読むことができる。

 

小説『天国はまだ遠く』は、なにもかもうまく行かず山奥の民宿で服薬自殺を図るも死にそびれたOL・千鶴が、民宿の管理人・田村さんの大雑把さや豊かな自然に癒されていく話である。

冒頭で自殺を試みる主人公はセンセーショナルだが、死ぬはずがもう一度目覚めてしまった後は、山奥の村の豊かな自然や空気に癒される穏やかな描写が続く。そうして田舎で暮らすことを決意するのかと思いきや……。作中で語られる”まだ”その時じゃないという感情は、千鶴と同じく都会でOLとして働く私には刺さった。もし私が都会から逃げ出したとして、でもやっぱり千鶴と同じく”まだ”ここで生きるには早すぎると思うのだろうな、と。

 

瀬尾まいこの作品は、何気ない日常、等身大の登場人物が描かれることが多いと思う。それが、中学生時代に読んだときは味気なく印象に残らなかったのだろう。もっとわかりやすい冒険や、ワクワクドキドキする展開が好きだった。お菓子で言えば、生クリームたっぷりのケーキや甘いチョコレートのようなわかりやすい味が好きだったんだろう。

大人になって……というか、しがないOLの一人となって、何気ない日常生活に散りばめられた小さなしあわせの物語が沁みるようになった。ワクワクドキドキのない普通の日常こそがリアルで、そんな日常の端っこで起きるほんの些細な出来事や心の動きが刺さるようになった。お菓子で言えば、一見何の変哲もない焼き菓子から漂うアーモンドプードルやピスタチオを好きになった感じだろうか。

 

全く初見の作品との新しい出会いも良いけど、ずっと昔読んだことのある作家さんの小説を読んでも、それはそれで新しい出会いになるだろうなと思う。こんなにも印象が変わるとは思っていなかった。

次はそれこそ『卵の緒』を読み直してみたい。もうストーリーの骨子も覚えちゃいない。きっと、また違った感想を抱くのだろう。