とうつきの本棚

本に纏わることの記録。

『夢十夜(乙女の本棚)』夏目漱石、しきみ

夏目漱石の『夢十夜』に、イラストレーターのしきみさんが描き下ろしたイラストを添えた文学絵本。

 

いまいち『夢十夜』とイラストがマッチしていなかった。

表紙の金魚の少女の絵は綺麗だと思う。それから、100年待っていて下さいの病床の女の絵と、蕪村の掛け軸と悟らねばならない侍のラストの絵も雰囲気が良い。

ただ、夢の主人公にあたる人物が、ガーリーな大正ロマン風の給仕服(?)を着て、犬だか羊だかのケモ耳を生やしている少女なのは理解できない。どうしてそうなった? これまで夢の主≒夏目漱石=男性と思っていたけど、本作が私小説ではない以上、夢の主は総じて女性の可能性もあるのだと気付けたのは良かった。でもロリータケモ耳少女じゃないでしょう、さすがに。

 

以前、同じ乙女の本棚シリーズの梶井基次郎『檸檬』×イラストレーターげみを読んだ。小説『檸檬』の陰影や色彩を美しく描き出して、文章とイラストがよく馴染み、小説を引き立てていたのを覚えている。一方、本作『夢十夜』は個性と個性のぶつかり合いで調和はしていない。有名イラストレーターの目を通して見た『夢十夜』として楽しむべきものなのか。それとも乙女はこういうのが好きなのか……?

 

モチーフや色使いは合わずとも、雰囲気自体は『夢十夜』と一致する点もある。イラストからは全体的に"ゆめ可愛い"雰囲気、しかも"パステルピンクに彩られた可憐な花が、実は猛毒を持つ花だった"といった不穏さ漂う可愛らしさを感じる。睡眠時に見る夢は、設定や進行がわけのわからないものが多い。それを不気味に表現した『夢十夜』のアンバランスさ・不穏さは、イラストの不穏な可愛らしさと合っていたと思う。

……でもやっぱり、ロリータケモ耳少女が夢の主なのはなぁ。

 

『夢十夜』自体は約10年ぶりの再読。大学の教養講座でレポート書いたな……多分「蛇になる、夜になる」の夢だった。相変わらず理解はできないけど、それでいい作品だと思っている。

 

  • タイトル:『夢十夜(乙女の本棚)』
  • 著者:夏目漱石、しきみ
  • 出版社:立東舎
  • 読んだ日:2024年1月▽
  • 経路:図書館で借りて