とうつきの本棚

本に纏わることの記録。

『夜明けのすべて』瀬尾まいこ

PMSによる苛立ちに苦しむ藤沢さんと、パニック障害による不安と焦燥感に襲われる山添君。普通の生活がままならない二人が出会い、社会での居場所と希望を見つけるまでの物語。

 

人から借りた本で、最初から読む前に途中をぱらぱらと捲った。ちょうど病気で苦しんだり、人から白い目で見られたりするシーンが長く続き、読んでいて胸がぎゅっとなった。瀬尾まいこ作品は部分的に悲しい場面はあれど、ほとんどが温かく優しいタッチで話が進むので、こんな暗い作品もあるんだ…と驚いたほどだった。

 

でも、改めて1ページ目から読むと、ゆるやかに希望へと向かう、ほんのり前向きになれる作品だった。最初はたしかに苦しく辛い場面も多いが、一歩一歩良い方向へと進み、最後にはたしかな希望の見えるストーリー。他作品よりわずかでも、たしかに明るさを感じられる作風はたしかに瀬尾まいこさんだった。全体的な読みやすさと、読後感の良さも。

大切な人や大好きな人に救われることもあるけど、ほとんど繋がりがなくどう思われてもいい人だからこそ自分を出せて、救われることもあると思う。二人の職場の雰囲気も良かった。程よい距離感が有り難いことはある。

 

ただ、藤沢さんのキャラが謎だった。気を遣いすぎと評されるも、そう感じる場面は少ない。物語序盤、昼食を買いに出掛けたコンビニで社員6人全員分のシュークリームを買う場面くらいだ。でも、その気遣いも押し付けがましい。シュークリームも甘い物が苦手だからと受け取りを辞退されると、わざわざ返すことないのにと憤慨する。却って迷惑になる可能性が頭になく、自分の厚意は感謝されて当然と思っている。

それは山添君への対応もそうだ。勝手に家を訪れて髪を切ろうとしたり、頼んでいない昼食を買ってきたり……。いくらどう思われてもいい相手だからと言ってやり過ぎでは? 私だったら普通に迷惑で止めてほしいので、結果的に良い方向に進んで良かったね……と飽きれる。これを気遣いにカウントしているのだろうか。

 

物語全体の流れと夜明けを感じるラスト、文章の読みやすさは良かったが、藤沢さんのキャラクター設定と行動が謎すぎた。

 

  • タイトル:夜明けのすべて
  • 著者:瀬尾まいこ
  • 出版社:水鈴社
  • 読んだ日:2024年1月▽
  • 経路:職場の人から借りて