太宰治の掌編『待つ』に、イラストレーターの今井キラさんが描き下ろしたイラストを添えた文学絵本。
駅前のベンチで何かを待っている女の独白。自分でも何を待っているのか分からずに、それでも毎日ベンチで待ち続ける心境を淡々と語っている。終始ぼんやりとしたまま終わる、その不思議さが魅力なのかもしれない。
イラストは着物やワンピースで着飾った女性が多く描かれる。可愛らしく美しいのにその瞳はどこか虚ろで、細かく書き込まれた装飾や小物もいっそ不安感を煽る。駅舎にしな垂れかかる女のイラストなど、どこか奇妙な夢のような今井キラさんの作風がこの作品に似合っていると感じた。
(以下、ネタバレ)
最初は女の気持ちが全く理解できなかったが、読み進めると分からないでもない。人が嫌いで、家が好きで、今のままで十分幸せ。それなのに、外的要因により言い様のない焦燥感を感じて、何かを為さねばならないと不安になる。ただ、何を為せばいいかはわからないから、当てのない何かを待つだけになってしまう……。
本作の"外的要因"は大戦のはじまりで、こんな平和な時代に共感できるなどと言ったら怒られてしまうかもしれない。でも、現代社会も不景気・流行り病・SNSでの罵り合い・弱者の排除・ハラスメント……etcで、気が滅入ることも多い。なんとなく不安や焦りを抱きやすい世の中で、何をしたらいいかわからずに、ただ何かを待つだけの人は多いと思う。
意外と現代にマッチした作品ではないだろうか。
文章はとても短く、あっという間に読み終わってしまった。「乙女の本棚」シリーズに合った文量・題材だと感じた。
- タイトル:『待つ(乙女の本棚)』
- 著者:太宰治、今井キラ
- 出版社:立東者
- 読んだ日:2024年2月▽
- 経路:図書館で借りて