とうつきの本棚

本に纏わることの記録。

『アンと青春』坂木司

デパ地下の和菓子屋「みつ屋」でアルバイト店員・梅本杏子ことアン。様々なお客様に対応し、店員たちと過ごす中で、改めて"働くってなにか"を考えていく。"ほの甘ミステリー"な『和菓子のアン』シリーズ第2作。

 

前作と比べて、人間関係にクローズアップされた話が多かった印象だった。

タイトルは『アンと青春』。「青春」といえば若者の恋愛のあれこれを想像しがちで、今作にもそれっぽい描写はある。でも今回の「青春」が指し示すのは、アンが「働くって何か」や「これからどうやって生きていくか」を考えるところだと思った。

正社員の椿店長や立花さんとアルバイトの自分を比べてしまい、そこからもたらされる仕事への向き合い方の差に凹んだり、言葉の裏を読んでショックを受けてしまったり……。「働いていると安心」を「ごまかし」だと自嘲する柏木さんに、心を突かれてしまったり。

たしかに、第1作で将来をよく考えず進学も就職もせず高校卒業したのは大丈夫かと思ったけど。そこから、ここまで「働くこと」に向き合うストーリーになるとは思わなかった。この働き方でいいのか、の悩みに揺れ動くアンの姿はまさに「青春」だと感じた。職場を離れて友人と旅行するアンが見れたのも良かった。これも「青春」。

 

上記の通り、恋愛の話もあるにはある。しかし、この話はLサイズの服がぱつぱつで、すっとした男性全般が苦手で、恋愛なんて滅相もないアン視点なので、面白いほど全然見えてこない。読者目線ではこれって……?と思うことも、アン視点では別の形で納得する。その鈍感さがまたいい。

 

小売業経験者としては、厄介なお客さんの描写が上手くてしみじみした。こういうお客さんいたな~! 言葉遣いも、震災後のあれこれも。アンの朗らかさに助けられている部分は大きいだろう。アンじゃなきゃもっとバチバチしていたと思う。

あと、怒られたわけじゃないけど注意を受けて気まずい、よくわからない理由で相手が不機嫌、あの人のキツイ言葉は自分にも向けれられたものでは……?といった、職場の微妙に気まずい人間関係の描写が上手い。

 

アンは終始ぐるぐる悩んではいたけど、最後は綺麗な終わり方で良かった。これからアンたちがどう変わっていくのか、今後が楽しみになった。

 

  • タイトル:アンと青春
  • 著者:坂木司
  • 出版社:光文社文庫
  • 読んだ日:2024年1月▽
  • 経路:図書館で借りて