とうつきの本棚

本に纏わることの記録。

『カナリヤは眠れない』近藤史恵

買い物依存症で多額の借金を抱えた過去のある墨田茜は、新婚の夫から渡されたクレジットカードカードで買い物を繰り返してしまう。身体の重さや不眠で訪れた合田接骨院で、その不調は周りに歪まされているからだと言われるが――。

 

買い物依存症の描写がとんでもなく上手い。

私はお得好きな節約家で、浪費とは遠く離れた場所にいる。けれど、私が買い物依存症になるならまさしくこのパターンだろうな…とか、一歩間違えたら私も買い物依存症になってしまうんじゃないか…とか、不安になる。試着室での逡巡、支払い直後からの後悔と言い訳、購入した洋服の行方――コンプレックスを刺激され、深みに落ちていく姿を描くのが上手すぎて恐ろしい。

 

ジャンルは一応ミステリーに分類されると思うが、ミステリー要素はほんの僅かである。謎解きは物語の終盤に添えるだけで、メインは女性たちの精神的な苦しみや生きづらさ。ミステリーとして読むとおそらく期待外れになるとと思う。

 

本作は二人の一人称で進む。一人は買い物依存症の女性・茜、もう一人は週刊雑誌の編集者の男性・小松崎。茜視点の鬱々としたストーリーに対し、お調子者の小松崎視点は軽く読める。このテンポが読みやすくて良いと思う。探偵役の合田力が整体師なので身体をマッサージする場面が描かれており、読むだけで身体がほぐれるようなのも良い。

 

久しぶりに再読したところ、こんなに不倫の描写があったっけ…?と驚いた。不倫を含む作品全般が苦手だが、それを凌駕する買い物依存症の描写の上手さに惹き込まれたのだろうな。

 

  • タイトル:カナリヤは眠れない
  • 著者:近藤史恵
  • 出版社: 祥伝社文庫
  • 読んだ日:2024年2月▽
  • 経路:ずっと昔に購入