とうつきの本棚

本に纏わることの記録。

『茨姫はたたかう』近藤史恵

一人暮らしを始めた書店員・久住梨花子は、引っ越し早々自宅のポストを荒らされる。日に日に色濃くなるストーカーの影、気の合わない隣人、職場でのトラブル――。臆病な優等生だった梨花子が自分の生き方と向き合う、整体師・合田力シリーズ第二作。

 

前作『カナリヤは眠れない』では、買い物依存症の主人公・茜の描写に感心した。その評価は、自分とは遠い世界だったからこそなのだと今更思った。今作『茨姫はたたかう』の主人公・梨花子の描写は、自分のダメな面を直視させられるようで、描写の巧拙よりも読んでいてしんどかったという感想が残った。

梨花子の基本的な考え方は「真面目で優等生的な生き方をしてきたのに、自分はどうして報われないのか」だ。そして"彼女視点で"不真面目に生きるすべての人を見下している。大学生でデキ婚をした弟と義妹、それを咎めず受け入れる父母、プライベートに踏み込む上司、遅刻癖のある同僚、水商売の隣人や部屋の汚い隣人――。独善的で被害者意識の強い梨花子は、読んでいて気分が悪くなる。

しかし、ここまでではないと信じたいが、いわゆるマジメに生きてきた自分も持ち合わせている考え方だった。傍から見れば気分が悪くなる思考なのに、どこか同意する自分も居てしんどい。こんなことを考えては駄目だと自己認識している分、彼女よりマシだと信じたい。そんな気分。

 

だからこそ整体師・合田の「だが、悪いのは、臆病でおれば、だれかが守ってくれる、と思いこむことや」という言葉には考えさせられた。

臆病であろうが、無鉄砲であろうが、世界が守ってくれることは絶対ないんや。他人も少しは守ってくれるかもしれんが、結局大したことはでけへん。でもな、それに気づいてへんやつがたまにいるんや。臆病でいれば、世界が守ってくれる。なんかそういう幻想に囚われている人間がたまにおるんや(文庫版P.203~204)

私は、世界が自分を守ってくれるとは思っていない。でも、真面目に生きていたら報われると、報われるような世界であるべきだと信じて頑張っている。これは、世界が守ってくれると妄信していることになるだろうか。平穏に暮らしたいと望むのは、臆病がゆえだろうか。

タイトルに繋がる梨花子の決意は良かった。助けてくれる誰かを待つのではなく、私は私だと一人で立って生きてゆく女性はかっこいい。

 

前作に引き続きミステリー要素は控えめ。ストーカーは誰なのか、どんな思惑があるのかと怯える場面は長いが、種明かしや解決は終盤にほんの少しだけとなる。

 

  • タイトル:茨姫はたたかう
  • 著者:近藤史恵
  • 出版社:祥伝社文庫
  • 読んだ日:2024年2月▽
  • 経路:BOOKOFFで購入