とうつきの本棚

本に纏わることの記録。

『夜は短し歩けよ乙女』森見登美彦

黒髪の「彼女」に思いを寄せる「先輩」が、なんとかして「彼女」の視界に入りあわよくばお近づきになりたいと奔走する、不思議和風ファンタジー。

 

頭の中では小難しい言い回しを多用し、斜に構えた臆病者である「先輩」が、ことごとく「彼女」との邂逅に失敗しすれ違う様は笑える。

春夏秋冬の4章構成で、1章の中では「先輩」視点と「彼女」視点が交互に描写される。読者としてはかなり惜しいニアミスもあることがわかるし、互いの視点から得た情報が上手くまとまって物語として着地するので感心した。

 

舞台は京都であり「四条木屋町」や「下鴨神社」など実際の地名が多く登場する。その一方、夜の街を走る3階建ての電車に住む好々爺や、飲み会で店内を漂う自称天狗や、古本市の神様やらも登場する。そこまでではなくとも、現実には存在しない不可思議な人物・団体に溢れている。読む前はもっと地に足着いた作品かと思っていたが、なるほど、和風ファンタジーだと思った。

 

実は何年前かに一度手に取ったことがあるが、「先輩」視点の仰々しく胡散臭い文体に読むのを諦めてしまった。今回は旅行先のブックホテル「TUNE STAY KYOTO」で出会い、せっかく京都を舞台にした作品なのだから……と再び挑戦した。「彼女」視点はまだ読みやすかったのが幸いしてなんとか読み切ることができた。ラストシーンでの「先輩」と「彼女」の様子にはほっこりしたので、読了できて良かったと思う。

しかし、やはり森見登美彦の文体は苦手で読むのが大変だった。私にとっては村上春樹と同じ、どうしても読みづらい文体なんだと思う。これからも挑戦していくかは未知数。……いや、やっぱり読まないかな。

 

  • タイトル:『夜は短し歩けよ乙女』
  • 著者:森見登美彦
  • 出版社:角川文庫
  • 読んだ日:2023年9月~10月◇
  • 経路:ホテル「TUNE STAY KYOTO」にて
  • その他:上記ホテルは京都に関わる本を集めた本屋がある。この本は”舞台が京都”から選書されたと思われる。