よく食べて、おっちょこちょいで、散歩が好きで、図書館が好き……そんな麦本三歩の日常を描いた作品。
きっととても好きだろうと手に取ったけど、残念ながら好みではなかった。まず三歩の業務態度が不真面目すぎてイライラする。かつ地の文のライトノベル風味が強すぎて引いてしまった。
章のタイトルはそれぞれ「麦本三歩は○○が好き」の形を取っている。そこに「散歩」や「図書館」といった私自身が好きなもののワードが入ったため期待した。天真爛漫な女性がなんてことない日常を、好きなものを楽しみながら生きる姿を描いてくれると。
たしかにそういった姿を描いているが、悪い意味で天真爛漫すぎる。
三歩は大学図書館に司書として勤務しているが、業務上ミスが多い。それを全く反省せず同じ過ちを繰り返す。それを叱る先輩に対して、厳しすぎるとむくれる。
そんなに怒らなくてもいいのにー。実は自分でも気がつかいないところで、怖い先輩のことを慕いそしてどこかなめている三歩は頭の中だけで舌を出して、仕事に戻ることにする。
「あーあと三歩、って、んだその顔」
「い、いえ、なんでも」
頭の中だけのつもりがついやってしまっていた馬鹿みたいな顔を、突然振り返った怖い先輩に見られてしまい三歩は狼狽する。も~女の子の見ちゃいけない部分ってあるんですよ~、と頭の中に甘えた後輩を召喚することで自我の崩壊を免れた。危ない危ない。(単行本/p.170~171)
この責任感の無さが信じられない。学生アルバイトでもぎりぎり許されないレベルだと思う。一端の社会人として、彼女の適当な態度にイライラしてしまった。
この点を「三歩だから」と肯定的に受け止める人物だけでなく、苦言を呈するキャラクターも登場したのは幸い。
また、本作は三歩の視線に沿った小説だ。テンション高い思考が地の文にそのまま現れる。
あ、あー、なるほどねはいはいそういう感じね嫌味を狙って言ってくる感じじゃなくて無邪気に感想を言っちゃったのがたまたま人を傷つけていくタイプね。ちょっと苦手だなー。って顔をしてしまっていた三歩はもう一度体調を気遣われ改めて元気なことを表明し、きちんとお姉さんとして説明すべきことを説明する。
(単行本/p.26)
「えー、ダメじゃないですか」
「げふっ」
二刺し目。自分がダメなのは知っていてもそれを面と向かってダメと言われれば三歩だって傷つく。重症です、担架を用意してください。(単行本/p.27)
正直、ついて行けない。著者の住野よるさんは当初電撃小説大賞に応募するなど、おそらく作風がライトノベルに近い。これまではそれが読みやすさに繋がっていたのだが、本作では過剰すぎる印象を受ける。もしかしたら、読者である私の受け止め方が変わったのかもしれないが。
"午後の紅茶"や"ブルボン"など実際の商品名が多様されるのは、三歩の世界を身近に感じられて良かった。また「麦本三歩は君が好き」は、三歩だからこそ言える言葉・天真爛漫な三歩の存在が救いとなる話となっていて良かった。
何よりも単行本の表紙デザインが良い。明るいイエローをメインに、実写で人物(麦本三歩役)や小物を配置している。このおしゃれさに惹かれた。
過去作の『また、同じ夢を見ていた』や『か「」く「」し「」ご「」と「』 では、少し不思議なことが起こる世界を描いていたが、本作はそういった不思議要素はない。
『君の膵臓をたべたい』から発揮されていた名前に関する拘りは健在で、主要登場人物の氏名は明示されないが、この点も特にどんでん返しなどには繋がらなかった。
麦本三歩は遠巻きに眺めるには面白い人物かも知れないが、絶対に近くで関わり合いにはなりたくないタイプだった。読むと疲れるので、再読はないかな…。
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