とうつきの本棚

本に纏わることの記録。

『そして、バトンは渡された』瀬尾まいこ

女子高生の優子には、親の離婚や再婚によって母親が二人、父親が三人いる。現在は血の繋がらない"父"・森宮さんと二人暮らしをする彼女は、しかし少しも不幸ではない。少し変わった家庭環境で多くの愛情を受けてきた優子へ、バトンが渡されるまでの物語。

 

困った。全然不幸ではないのだ。(文庫版p.8)

優子視点の本文は、こうやって始まる。もうこの時点で引き込まれた。複雑な家庭環境で暮らす彼女には、周りが思うほどの悩みはなく、不幸でもない。本文を読み進めればそれなりに苦労したこともあるのに、親たちに確かに愛されてきたという自覚と、子供は親の都合に従うしかないよねという諦めが両立する。この芯の強さとしなやかさは魅力的だった。彼女が主人公だからこそ、この作品は面白いのだと思う。

現在の父親である森宮さんも憎めないキャラクターだった。どこかテキトーでとぼけた性格なのに、話を追うにつれて優子への愛情深さが際立つ。

 

作中ではこれまでの親との過去も多く語られるが、森宮さんとの生活を主軸として、折に触れて過去を振り返る構成なのでわかりやすい。

ただ、高校での友人関係や恋愛に関する描写はややクドい気もした。文庫版でページ数420ページの長編作品。私はこの作品を親たちと優子の家族の物語だと捉えたので、優子の高校生活まで仔細に描いて本を分厚くされるとダレると感じる。しかし、クラスの雰囲気が悪くなっていく様子はあるあるで、元教師の瀬尾まいこさんならではの表現だとも思う。


個人的には結婚・出産の予定がなく、現状いわゆる「バトンを渡す相手」がいないので、読了後少し居心地の悪さを感じた。

一方で、全編を通じてあたたかい家族の話で、希望に満ちた終わり方は読後感も良い。2023年最後に読むのに相応しい作品だった。

 

  • タイトル:そして、バトンは渡された
  • 著者:瀬尾まいこ
  • 出版社:文春文庫
  • 読んだ日:2023年12月◇
  • 経路:BOOKOFFで購入