とうつきの本棚

本に纏わることの記録。

『木曜日にはココアを』青山美智子

川沿いの桜並木を抜けた先、大きな木の陰に隠れるように佇むマーブル・カフェ。こじんまりしたカフェを起点に、リレーのように繋がる人々のあたたかな短編集。

 

1話1話の文章はとても短くさらっと読める。おそらく1話10分も掛かっていない。そんな短い文章なのに、心がじんわりあたたかくなったり、爽やかに晴れ晴れとした気持ちになったりする。いずれの作品にも、完全な悪人は登場しない。さらっと読めるのに読後感がよく、舌触りのいい小さなお菓子みたいな作品だと思った。

 

それぞれの話はうっすらと繋がっている。前の話で登場したお店の店員さんや、立ち話をしたおばあさんが次の主人公となり、話が続いていく。「袖振り合うも他生の縁」とのことわざを思い出した。厳しい上司や道端ですれ違っただけの人にも、その人それぞれの人生があるのだと気付かせてくれる。

一番心に残ったのは「聖者の直進 [Blue/Tokyo]」。泰子の真面目すぎて融通が利かないところに親近感を覚えた。ほわっとしたタイプの異なる友人と一緒にいると安心するところも。私にとって許せない他の誰かには、私とはまったく別の何かを大切にしているのかもしれないなぁ。

 

一編の短さと読後感の良さから、通勤電車などでちょこちょこ読み進めるのがベストだと思う。この作品はもちろん、著者の他の作品も読みたくなった。

 

  • タイトル:木曜日にはココアを
  • 著者:青山美智子
  • 出版社:宝島社
  • 読んだ日:2024年1月▽
  • 経路:職場の人から借りて