日本人女性のサチエがフィンランドで始めた食堂が舞台に、訳あってフィンランドを訪れたミドリやマサコと話したり、お店を手伝ってもらったり……そうして過ぎる日々を淡々と描いた物語。さらっとして読みやすかった。
大成せずに、ただ生きる姿を描いているのが良かった。
主人公が飲食店を営むとなれば、様々な人や運に恵まれて店がすぐ軌道に乗るか、常連客がいるレベルまで店が成長した状態から物語が始まることが多いと思う。しかし、かもめ食堂は客入りがまったくない状態から始まる。日本人の見た目が幼いことも相まって「子供が一人で店番をしている」なんてヒソヒソ話をされ、一番食べてほしいおにぎりはどうしたって不評で……。そんな順風満帆ではない、しかし波乱万丈でもない状態が続くストーリーに、なんだかほっとした。
開業資金が宝くじなのは笑った!これはこれで良い!それくらい吹っ切れた現実感の無さなら受け入れられるし、そうでもしなきゃ話が始まらないんだから。
登場人物がそれなりに真面目に生きてきた、しかしいつしか立ち行かなくなってしまった女性たちなのも良い。天下り役員たちの会社でお茶汲み事務OL、両親の介護のために就職しなかった家事手伝い――。前者の事務OLは少しぐっさり来た。私の勤め先も天下りではないけど、きっと普通の会社よりはぬるい。このままでいいのかと思ってしまうことがある。もし会社が解散したら、私も国立フィンランドムーミン語学学校(だっけ?)に行くなんて言って日本を離れるだろうか。
- タイトル:かもめ食堂
- 著者:群ようこ
- 出版社:幻冬舎
- 読んだ日:2023年8月◇
- 経路:ブックカフェ「HAPPY SCIENCE GINZA BOOK CAFE」にて