とうつきの本棚

本に纏わることの記録。

『お探し物は図書室まで』青山美智子

小さな図書室の司書・小町さんは、利用者の探す本をレファレンスする際、全く異なる分野の本を1冊つけ加える。羊毛フェルトの付録と共に示されたその本は、利用者の悩みや迷いに寄り添い優しく背中を押す。心温まる連作短編集。

 

主人公は図書室の利用者5人だ。悩みを抱えながら気まぐれで図書室を訪れて、司書の小町さんから紹介された本を読み、新しい一歩を踏み出すまでの物語を、それぞれの目線から描いている。

図書室への来訪が大きな鍵となるが、図書室での描写は意外と少ない。あくまで主人公は利用者たちで、主人公にとっての舞台は毎日を生きる職場や家庭だ。図書室は主人公の生活に添えるように登場する。

 

それなのに、司書・小町さんの存在感といったらすごい。

主人公たちがベイマックスやマシュマロマンに例える白い肌と巨体、白っぽい服装、小さなお団子頭に刺さった白い花のかんざし。大抵はレファレンスコーナー内で、一心不乱に羊毛フェルトに勤しんでいる。とんでもなく話し掛けづらい見た目なのに、落ち着いた深い声に「何をお探し?」と問われれば、考えていることをぽろぽろと話してしまう。少ない会話の中から利用者が本当に探しているものを読み取り、おすすめの一冊を資料リストの末尾に添えてくれる。魅力的すぎる。

最初は謎に包まれていた小町さんだが、短編を読み進めるごとに少しずつ情報が出てくるのがまた良い。

 

同著者の『木曜日にはココアを』や『月曜日の抹茶カフェ』同様に、主人公の悩みの描写にはリアリティがある。タイミングが悪くて物事が悪化していく様など見ていられない。上記二作はSSレベルの短編だったのですぐに事態は好転したけれど、今回はそれより長めの文章なので、苦しい場面が続くとしんどくなった。

素敵な物語だけど、あの辛い場面をもう一度読むことを考えると、再読するのはつらいな。

 

  • タイトル:お探し物は図書室まで
  • 著者:青山美智子
  • 出版社:宝島社
  • 読んだ日:2024年2月▽
  • 経路:職場の人から借りて