著者が茶道を通じて出会った物の感じ方や考え方を綴ったエッセイ。
「○○によって考え方が変わった」「××を経験して毎日を大切に生きるようになった」といった体験談自体は世の中に多い。よく目にするエッセイと本作が異なるのは、著者が長年通ったお稽古事による学びである点だと思う。一朝一夕の気付きではない。学生時代から執筆時点に至るまで、何十年も続けた茶道のなかで気付いた学びである。その瞬間を自分の中で何度も反芻したのだろうなと思われる、じんわりと染み渡るような気付きが読んでいて心地よい。
茶道を始めたばかりの頃に「お茶のこんなところがおかしい」と悪態をついたり、お稽古をサボりたいと思ったり、恰好つけずにありのまま書いたと思われる点も好きだ。
文章も読みやすい。加えて、15章に分割されており短編小説のようにサクサク読める。茶道についても、読者が置いてけぼりにならない程度の簡単な説明が入る。
図書館で借りてしまったけど、手元に置いて「人生疲れた~~~」なんて時にぼんやり読み返したい。きっとおいしいお茶を飲んだり、ふらっと散歩をしたくなるはずだ。