とうつきの本棚

本に纏わることの記録。

『ミトンとふびん』吉本ばなな

静かで優しい、そっと寄り添うさみしさと思い出を描いた作品集。

 

吉本ばななさんは静かなさみしさを描くのが上手いな、と思う。それも本当に一人ぼっちのさみしさではなく、隣に誰かがいる/いた時にこそ感じるさみしさである。

 

本作には、大切な人を亡くした人が多く登場する。死別に泣き叫ぶ時期はとうに過ぎ、しかし埋まらない喪失感にぼんやりと漂うような人たちだ。彼ら彼女らは、誰かと一緒に過ごしたり、違う街を訪れたりして喪ったかなしみを感じる。真正面から向き合って消化するのではなく、ただどうしよくもなく悲しくてかなしみを感じる作品が多いと思った。そういう、さみしさと共存する静かさに惹かれるのだと思う。

 

特に好きなのは「SINSIN AND THE MOUSE」だ。
先日、高齢の母と旅行した。"親孝行したいときに親はなし"を感じて、元気なうちにと実行した。
この作品の母ほどではないが、私の母も私のことを大切にしてくれている。そんな母が亡くなったらどんな風に思うのだろう。主人公のどうしようもない喪失感に苦しくなった。主人公の乗り越えるための第一歩は特殊で、私はきっとこんな方法は取らないと思うけど、透明な苦しさは同じかもしれないと思った。

作中にある好きなフレーズ↓

私は私を信頼できない人に渡してはいけない、母にこんなにだいじにされているのだから、だいじにしてくれない人には触らせてはいけない。

「SINSIN AND THE MOUSE」

 

本書は、神保町にある「BOOK HOTEL 神保町」に泊まったとき出会った。宿泊中には読み切れず、図書館の在庫検索をしたら55人待ち!12月に予約して、手元に届いたのは7月だった。複数冊あって回転は早いはずだが、なかなか時間が掛かる。
読んで見れば好みの内容で、装丁や文章の配置も良い。手元に置いて、さみしくなったとき読み返したい本だと感じた。

 

これまでに『キッチン』や『ハゴロモ』を読んだが、うすく張った氷を通して見るような、どこか静謐な空気感のある作品だった。『ミトンとふびん』は、それ以上に静かでさみしさに溢れた作品だと思う。

 

  • タイトル:ミトンとふびん
  • 著者:吉本ばなな
  • 出版社:新潮社
  • 読んだ日:2023年7月◇
  • 経路:「BOOK HOTEL 神保町」で出会い、図書館で借りて。

 

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