とうつきの本棚

本に纏わることの記録。

小説

『天国はまだ遠く』瀬尾まいこ

なにもかもうまく行かず、山奥の民宿で服薬自殺を図るも死にそびれた千鶴。民宿の管理人・田村さんの大雑把さや豊かな自然に癒されていくが……。 都会で疲れた人が田舎で癒やされる物語は多い。そのほとんどは、田舎の美しさにただ癒やされて都会に戻るか、田…

『夜は短し歩けよ乙女』森見登美彦

黒髪の「彼女」に思いを寄せる「先輩」が、なんとかして「彼女」の視界に入りあわよくばお近づきになりたいと奔走する、不思議和風ファンタジー。 頭の中では小難しい言い回しを多用し、斜に構えた臆病者である「先輩」が、ことごとく「彼女」との邂逅に失敗…

『強運の持ち主』瀬尾まいこ

元営業OLの占い師・ルイーズ吉田が、ショッピングセンターの片隅で出会う人たちの悩みを解決していく小説。 ルイーズ自身が占いを信じていないのが良い。前職の営業スキルを活かせる!と求人広告に応募し、実際にその話術でお客さんを引き込んで独立している…

『かもめ食堂』群ようこ

日本人女性のサチエがフィンランドで始めた食堂が舞台に、訳あってフィンランドを訪れたミドリやマサコと話したり、お店を手伝ってもらったり……そうして過ぎる日々を淡々と描いた物語。さらっとして読みやすかった。 大成せずに、ただ生きる姿を描いているの…

『ミトンとふびん』吉本ばなな

静かで優しい、そっと寄り添うさみしさと思い出を描いた作品集。 吉本ばななさんは静かなさみしさを描くのが上手いな、と思う。それも本当に一人ぼっちのさみしさではなく、隣に誰かがいる/いた時にこそ感じるさみしさである。 本作には、大切な人を亡くした…

『食堂かたつむり』小川糸

恋人にすべてを持ち去られたショックで、声までも失った倫子。山あいの田舎に戻った彼女は、一日一組限定の食堂を開くことにした。食事と人間模様を描いたおとぎ話。 作中で調理の様子が丁寧に描写されているのが楽しい。著者と主人公が食事を大切に思ってい…

『ことり』小川洋子

長年幼稚園の小鳥小屋を掃除していた「小鳥の小父さん(おじさん)」が亡くなった。一羽の小鳥が収まった鳥籠を抱きかかえ、安堵してゆっくり休んでいるかのように亡くなった小鳥の小父さんの一生を振り返る物語。 とても静かな作品だった。作中によく"じっ…

『麦本三歩の好きなもの』住野よる

よく食べて、おっちょこちょいで、散歩が好きで、図書館が好き……そんな麦本三歩の日常を描いた作品。 きっととても好きだろうと手に取ったけど、残念ながら好みではなかった。まず三歩の業務態度が不真面目すぎてイライラする。かつ地の文のライトノベル風味…

『サクリファイス』近藤史恵

自転車競技(ロードレース)のスポーツ青春小説、かつ、想像もできない理由で起きた悲劇を紐解くミステリー。 初読は10年前。これまで読んだ本の中で、もっとも心に残っている本。 まず自転車競技の説明が上手い。 これまで自転車レースなんて一度も見たこと…

『おいしいごはんが食べられますように』高瀬 隼子

始終不穏な空気の漂う、働く人たちの仕事とご飯の物語。 この本の説明は、公式の内容紹介が秀逸すぎる。これ以上の文章が浮かばない。 第167回芥川賞受賞! 「二谷さん、わたしと一緒に、芦川さんにいじわるしませんか」心をざわつかせる、仕事+食べもの+…

『毒入りチョコレート事件』アントニイ・バークリー(高橋泰邦訳)

ひとつの事件を6人がそれぞれ推理する、推理の手法と展開を楽しむミステリー。海外ミステリーに明るくない私でも、名前は知っているとても有名な作品。 既に殺人事件が発生し、警察が捜査するも行き詰まった状態で物語が始まる。探偵役は犯罪研究会の6人。彼…

『グリフォンズ・ガーデン』早瀬耕

恋人ともに札幌へやってきた"ぼく"。就職先の知能工学研究所で、"ぼく"は有機素子コンピューターIDA-10の中にひとつの世界を創り出す。 物語は「PRIMARY WORLD」と「DUAL WORLD」の2つの軸を持って進む。最初は意味がわからなかったが「PRIMARY WORLD」を読…

『プラネタリウムの外側』早瀬耕

"ぼく"と南雲が開発した、有機素子コンピューター・IDA-Ⅺを用いた会話プログラムを取り巻く物語。 冒頭数ページは、読む小説を間違えたかと思った。斜に構えた男主人公は意味の分からないことを言い出すし、寝台列車に乗る"ぼく=北上"と"彼女=尾内"以外に、…

『秘密。私と私のあいだの十二話』吉田修一他

12人の著者による、1つの物語を2つの視点から綴った短編集。 なんてことないストーリーが、別の視点から綴られると驚きの展開に……!そんな期待を持って読んだものの、完全に期待外れだった。 『秘密。』というタイトルから、「A面に隠された秘密がB面を読む…

『死神の精度』伊坂幸太郎

「この人間は八日後の死が相応しいか?」。調査部の死神・千葉と、調査対象の人物を描いた連作短編集。 死神・千葉のキャラクターが魅力的。調査対象を詳しく調べずに「可」を出す死神も多いらしいが、千葉は傍から対象人物をよくよく観察している。一方でそ…

『お茶が運ばれてくるまでに』他 時雨沢恵一

『キノの旅』シリーズの著者・時雨沢恵一さんと、イラストレーター・黒星紅白さんによる、大人向けの絵本。または、格言集×イラスト集。 文庫本の形をしてはいるが、中身は可愛らしいカラーイラストを大きく配置し、その合間にぽつぽつと掌編を並べた絵本の…

『Rのつく月には気をつけよう』石持浅海

大学時代からの飲み仲間である湯浅夏美、長江高明、熊井渚の3人。マンションの一室でレジャーシートと折り畳みテーブルを広げて開催される飲み会は、毎回誰かがゲストを連れてくる決まりになっている。ゲストが提供する話題には、いつもほんの少しの違和感、…

『終末のフール』伊坂幸太郎

「八年後に小惑星が衝突して、地球は滅亡する」 そんな情報によって世界中に溢れる暴動、略奪、殺人、自殺……荒れに荒れてから五年。終末まであと三年。 小康状態が訪れた仙台のとある団地を舞台にした、重なり合う短編集。 本が寄贈できるホテル「BUNSHODO H…

『また、同じ夢を見ていた』住野よる

『君の膵臓を食べたい』で有名な住野よるさんの作品。 人生とは、が口癖の少女が街のあちこちで年齢も境遇も異なる友達とお喋りして、小学校の国語の課題「幸せとはなにか」を考える話。 主人公の小柳奈ノ花は、自分は頭が良い、特別だ、と思っている小学生…